今回は肩関節脱臼(shoulder dislocation)になってしまったときの対処法について書いていきます。
肩関節は人体の関節の中でも最も脱臼しやすい関節と言われています。
再脱臼の発生率も高く、繰り返し脱臼が起こると手術療法が必要となる厄介なケガです。
再脱臼を防ぐためにも、的確な治療方針の決定やリハビリが重要になってきます。
今回はそんな肩関節脱臼について解説していきたいと思います!
目次
肩関節脱臼とは?
肩甲骨と上腕骨で構成されている肩甲上腕関節(肩関節)脱臼してしまっている状態をさします(図1)。
肩関節脱臼の97%以上は上腕骨が前に抜けてしまう前方脱臼で、上腕骨が後ろに抜けてしまう後方脱臼は3%未満と報告されています(図2)[1]。
肩関節の前方への安定化は、下関節上腕靭帯(IGHL:inferior glenohumeral ligament)と関節唇が担っています。
そのため、肩関節が前方に脱臼するとIGHLと関節唇の複合体が破綻してしまいます。その損傷のことをBankart病変(バンカート病変)と呼びます。
また、前方脱臼に伴い、上腕骨後外側部の軟骨損傷や陥没骨折が生じることもあり、このことをHill-Sachs病変(ヒルサックス病変)と呼びます(図3)。
Bankart病変ような肩関節安定機構の破綻が生じると、肩関節は再脱臼しやすくなってしまいます。
25年間で257例の肩関節初回脱臼(12~40歳)をフォローした研究では、保存療法を行い追跡可能であった229名中99名(43%)が再脱臼を起こしたと報告しています[2]。
この研究では対象がスポーツ選手に限定されていなかったものの、43%という高い再脱臼率であり、特に22歳以下の人の72%が再脱臼したとされ、若年者ほど再発が多いと報告されました。
多くの研究で「若年者」✕「スポーツ選手」は再脱臼率が高いと報告されているため、手術療法が推奨されています。
順天堂大学の研究グループでは、「再脱臼を繰り返すことの影響」を調査し報告しています[3]。
この研究の結果、ラグビー選手が利き手側で4回、非利き手側で5回の肩関節脱臼・亜脱臼を繰り返してしまうと、肩関節の骨の欠損が大きくなり標準的な手術では予後が悪くなるってしまうことが明らかになりました(図4[4]学校法人 順天堂 ラグビー選手では「4回」の肩関節脱臼が黄色信号により引用)。
肩関節脱臼は、再脱臼を繰り返す前に早めに手術を行っておくことが大切だということがわかります。
肩関節脱臼が起こりやすいシーン
肩関節脱臼はコンタクトスポーツで多く発生します。
ラグビーやアメリカンフットボールではタックルで生じ、サッカーやスキーなどでは転倒して地面に手をついてしまうことで多く発生します。
肩関節脱臼のよくある症状
肩の激しい痛みと、脱臼・亜脱臼感を自覚することが多く、肩が抜けたと訴える選手が多くいます。
そのため、「肩が外れた」と訴えてきた選手に対しては、まず第一に肩関節脱臼を疑うようにしましょう。
肩関節脱臼は、脱臼が起こった後に自然に整復する場合(亜脱臼)と、脱臼したままになっている場合(図5)があります※。
脱臼直後は、ほとんど肩に力が入らないため、手をだらんとぶら下げて逆の手で抑えている格好が特徴的です。
また、脱臼に合併して腋窩神経麻痺などの神経の症状が出現する場合があるため注意が必要です。
脱臼は、肩を他の人戻してもらわないと戻らない状態、亜脱臼は自分で戻せる状態をさしています。
亜脱臼だから症状が軽いということはないため、同じ意味で捉えてください。
病院で行う検査
画像検査では、一般的にレントゲン検査、CT検査、MRI検査を行います。
レントゲン検査ではHill-Sachs病変などの骨欠損の有無を、CT検査ではより詳細な関節窩の骨欠損(骨性Bankart病変)や関節窩の形状を確認し、MRI検査ではBankart病変などの関節唇損傷や関節包靱帯などの軟部組織の損傷状況を確認できます。
一般的な診察手順は、問診(痛みが出た状況の確認、既往歴の有無など)、触診(痛みのある場所のチェック)、スペシャルテスト(関節可動域、apprehension test、relocation test)などを行います。
肩関節脱臼と診断されたら
保存療法と手術療法の選択肢があります。
初回の脱臼であれば、基本的には保存療法を目指しますが、骨性の損傷が大きい場合や個人の復帰希望時期、再脱臼率の高さを考慮した上で手術療法の適応の可能性を専門医の先生とよく相談する必要があります。
また、再脱臼してしまった場合は手術療法を十分に検討する必要があります。
肩関節脱臼のリハビリテーション
保存療法のリハビリテーション
初回脱臼後、保存療法で復帰を目指す場合のリハビリの流れを説明します!
まず、肩関節脱臼後は基本的に3週間の固定を行います。
固定の肢位は2種類あり、内旋位固定と外旋位固定が行われています(図6)。
外旋位固定と内旋位固定を比較した研究を集め、結果を統合し分析したメタアナリシス研究では、外旋位固定の方が優位に再発率が低く、合併症が少ないと報告しています[5]。
そのため、基本的には外旋位固定が推奨されますが、外旋位固定では生活への支障が大きいこと、スポーツ復帰時期については差がないことから、内旋位固定が選択される場合も多くあります。
・上腕、首の筋肉のマッサージ
一方で、固定していると周囲の筋肉が硬くなってくるため、手で揉むなどのマッサージをしてあげましょう。
★肩のインナーマッスルを鍛える(←腱板筋のトレーニング)
・肩甲骨周囲の筋肉を鍛える!(←肩甲骨の筋トレ)
・肩の可動域を広げた状態で腱板のトレーニングを行う!
・腕を振ってランニングをスタートする
・リアクション、対人動作の練習をする!(リアクションドリル、対人練習など)
・肩の不安感がまったくない
手術療法のリハビリテーション
再脱臼の場合、骨欠損が大きい場合は手術療法が適応となります。
手術療法は大きく分けて2種類あります。
- Bankart修復術
- 損傷してしまったBankart病変(関節包や関節唇など)の修復を行います。
- 肩をできる限り元の状態に近づける手術のため、野球の投球側など可動域制限を極力出したくないスポーツの選手に多く行われます。
- Bristow(ブリストー)法(烏口突起移行術)
- 肩甲骨の突起部分である烏口突起の先端を筋肉・腱と一緒に切り取り、関節窩前方に移行してスクリューで固定します。
- 固定性が高いため、再脱臼しにくいと言われています。
- 一方で、可動域制限や合併症も起こりやすいとも言われています。
大まかに2種類説明しましたが、その他にも細かく違う術式がたくさんありますので、是非専門医の先生と相談して治療方針を決めていきましょう。
Bankart修復術後のリハビリテーション
以下に、おおまかな術後スケジュールを記載していきますが、あくまで執刀医の先生のスケジュールを大切にして下さい!
・炎症が増えない範囲で介助下に腱板訓練スタート
・上腕・首の筋肉のマッサージ
・自動運動から徐々に腱板筋トレーニング
・ウォーキングやジョギング開始
Bristow法後のリハビリテーション
以下に、おおまかな術後スケジュールを記載していきますが、あくまで執刀医の先生のスケジュールを大切にして下さい!
・炎症が増えない範囲で介助下に腱板訓練スタート
・上腕・首の筋肉のマッサージ
・自動運動から徐々に腱板筋トレーニング
・ウォーキングやジョギング開始
・荷重訓練開始(四つ這い、プランク、腕立て伏せなど)
・徐々にウエイトトレーニング開始
・コンタクト練習スタート
その後は徐々に運動量を上げていき、3〜6ヶ月で復帰を目指します!
Bristow方の術後のほうが少し復帰が早いイメージですね。
まとめ
ここまで、肩関節脱臼の方針やリハビリテーションについて書いてきました。
肩関節脱臼は治療方針の決定、リハビリの進め方がとても大切なケガです。
知識を身につけ、専門医の先生としっかり相談しながら復帰を目指していきましょう!
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