投球障害肩と投球フォーム

今回は投球障害肩になってしまったときの対処法について書いていきます。

投球動作の繰り返しによって起こる傷害は、小学生年代では肘に多いと言われていますが[]、高校生[]やメジャーリーガー[]など大人になるにつれて肩に多くなると報告されています。

今回は投球フォームや体の使い方と投球障害肩の関係について解説していきたいと思います!

 

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投球障害肩とは?

投球障害肩(野球肩)とは、投球動作のようなオーバーヘッドスポーツで繰り返し肩を使うことによって生じる、肩の痛みの総称です。

「投球障害肩」は総称であるため、損傷されている組織や痛みの種類などさまざま病態が含まれています。

投球障害肩に含まれるケガをわかりやすく説明するため、痛みの出やすい場所で「前方」「側方」「後方」に分けてみました。

     

    あきと
    それぞれの疾患について詳しく知りたい方はリンク先の記事をご覧ください。
    この記事では、投球動作とケガについて掘り下げていきますね。

    投球動作のフェーズ分け

    投球動作は大きく6つのフェーズに分類されています(図1)[]。

    • ワインドアップ期:投球の開始〜グラブからボールが離れるまで
    • 初期コッキング期:踏み込み足が接地するまで
    • 後期コッキング期:投球肩が最大外旋(ひらく)するまで
    • 加速期:ボールリリースまで
    • 減速期:投球肩が最大内旋するまで
    • フォロースルー期:投球終了まで

     

    投球フェーズ
    図1:投球フェーズのイメージ図。

     

    あきと

    投球フォームをチェックする時、痛みが出た瞬間を確認する時などに投球フェーズの知識が必要になります。

     

    痛みの出やすい投球フェーズ

    投球障害肩で確認すべきフォームのポイントは肩最大外旋ボールリリースです(図2)。

    1. 肩最大外旋位(MER:maximum external rotation、レイトコッキング期)
      肩最大外旋位の直前に多方向から肩(肘も)への負担が集中すると言われています[]。
    2. ボールリリース(減速期)
      ボールリリースの直後も腕が引っ張られる方向に大きな力が加わります[]。
    投球 MER 肩最大外旋 ボールリリース
    図2:痛みが出やすいといわれている、「肩最大外旋位」と「ボールリリース」の投球フェーズ。文献5(Fleisig et al. 1995 AJSM)より引用しています。

     

    投球障害肩のよくある症状

    主症状は、投球時の肩の痛みです。

    前述したように、色々な疾患の可能性がありますので、細かい症状は以下の各疾患ページをご参照ください。

    あきと
    早めに病院の先生に診てもらいましょう!

    病院で行う検査

    一般的な診察を行い、組織損傷が疑われる場合には、MRI検査エコー検査レントゲン検査を行い、痛みの原因となっている組織損傷の確認します。

    明らかな組織の損傷がない場合は、そのまま投球障害肩と診断されることもあります。

     

    投球障害肩と診断されたら

    基本的には保存療法でリハビリを行ないます。

    損傷組織によってリハビリが異なってくるためそれぞれのページをご参照ください。

    ここでは投球動作に復帰する際の投球フォームに関するリハビリついて詳しく書いていきたいと思います。

     

    肩・肘に負担のかかる投球フォーム

    投球フォームについたは色々な考え方があると思います。

    ここでは、肩・肘のケガにつながると研究データで証明された良くないフォームの典型例を紹介します。

    投球フォームと体の使い方については、スポーツリハビリテーションの臨床という本がとてもわかりやすかったので、基本的に参考にしながら書いていきます[]。

    3つの良くないフォーム
    ★肘下がり
    ★hyper angulation
    ★手投げ
    肩・肘のケガ発生につながる悪いフォームとして、上記3つが上げられます。
    それぞれ説明していきますね。

    肘下がり

    肩最大外旋位が含まれるレイトコッキング期で、「両肩のラインよりも肘の高さが下がるフォーム」のことをさします(図3)。

    肘下がりは肘内側障害の発生要因になると言われています。

    肘下がり 投球フォーム
    図3:肘下がりのフォームのイメージ図。両肩を結んだラインよりも肘が下がっていると肘下がりと呼ばれます。

     

    hyper angulation

    肩最大外旋時前後のフェーズで、肩水平外転が増大する現象をさします。

    肩水平外転とは、肩を真横に上げた状態で、肘が肩より後ろに移動する動きのことです。

    インターナルインピンジメントなど肩のケガの要因になると言われています[]。

    投球フォーム hyper angulation 説明
    図4:hyper angulationのフォームのイメージ図。肩最大外旋時前後のフェーズで、肩水平外転が増大することをさします。※この写真は説明用です。この選手がhyper angulationというわけではありません。

     

    手投げ

    加速期において、肩水平内転(肘が前に突き出す)が増大し、上腕が肩甲骨平面上から逸脱した状態でリリースする現象をさします。

    肩・肘など多くのケガと関連していると言われています。

    手投げ 投球フォーム
    図5:手投げのフォームのイメージ図。加速期に肘が前に突き出した状態でリリースすることをさします。

     

    不良投球フォームの原因

    「肘下がり」「hyper angulation」「手投げ」の原因は図6のようなことが言われています。

    スポーツリハビリテーションの臨床の内容を大まかにまとめて作図しています。

     

    投球フォーム 不良フォームの原因
    図6:不良投球フォームの原因のイメージ図。各フェーズでのエラーが次のフェーズに影響して不良フォームを作り上げています。

     

    フォームを安定させるためのトレーニング例

    軸足・体幹の安定性
    ・軸足のお尻の筋トレ
    ・体幹の筋トレ
    ・片足スクワットなど荷重トレーニング

    あきと
    まずは軸足を安定させ、安定した状態で骨盤をスムーズに前方に押し出す能力が必要です!
    骨盤・体幹のスムーズな運動
    ・股関節のストレッチ
    ・体幹の回旋運動
    ・タイミングを合わせて体幹回旋を協調的に行う練習

    あきと
    軸足で骨盤をスムーズに押し出しながら、安定する股関節の可動域が必要です。
    この時、踏み込み足が接地するまで、体幹の回旋はガマンです。
    踏み込み足の接地と同時に体幹の回旋をスタートする練習をしましょう!
    踏み込み足の機能
    ・踏み込み足のストレッチ
    ・荷重をかけたトレーニング

    あきと
    踏み込んだ足の可動性や安定性も重要です!

    まとめ

    ここまで、投球障害肩と投球フォームについて書いてきました。

    投球フォームについては考え方が様々あります。

    今回はデータに基づいた不良フォーム例を紹介しましたが、フォームを修正するときは選手自身や監督・コーチともよく相談した上で行っていきましょう。

    あきと
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    参考文献

    [1]Sakata et al. Physical Risk Factors for a Medial Elbow Injury in Junior Baseball Players: A Prospective Cohort Study of 353 Players. Am J Sports Med. 2017 Jan;45(1):135-143. 

    [2]Shanley et al. Shoulder range of motion measures as risk factors for shoulder and elbow injuries in high school softball and baseball players. Am J Sports Med. 2011 Sep;39(9):1997-2006. 

    [3]Pollack et al. Developing and Implementing Major League Baseball's Health and Injury Tracking System. Am J Epidemiol. 2016 Mar 1;183(5):490-6. 

    [4]Digiovine et al. An electromyographic analysis of the upper extremity in pitching. J Shoulder Elbow Surg. 1992 Jan;1(1):15-25. 

    [5]Fleisig et al. Kinetics of baseball pitching with implications about injury mechanisms. Am J Sports Med. 1995 Mar-Apr;23(2):233-9. 

    [6]青木治人 監修. 第13章 野球 -スポーツリハビリテーションの臨床-. メディカル・サイエンス・インターナショナル. 2019. 346-359.

    [7]Davidson et al. Rotator cuff and posterior-superior glenoid labrum injury associated with increased glenohumeral motion: a new site of impingement. J Shoulder Elbow Surg. 1995 Sep-Oct;4(5):384-90.

     

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